民法大改正
民法が大改正されたことぐらいはご存知だと思いますが,120年ぶりの大改正ですよ。
約200項目の改正ですので,すべてについて解説はできません。
一般消費者に影響がありそうな重要な変更のみをピックアップします。
国民全員の生活に影響のある法律ですので,主な改正点を確認してみましょう!
「敷金」についての改正
まずは,馴染み深い「敷金」の改正です。
あらためて説明するまでもありませんが,「敷金」とは保証金のようなもので,借り主が家賃等を支払えなくなったときのために大家が入居時に預かるお金のことです。
この「敷金」は不動産業界の慣習にすぎず、法律で定められているものではありません。
そのためトラブルが多いお金なのです。経験された方も多いのではないでしょうか?
そんな背景により,この度改正が行われました。
敷金の定義の明確化
まずは「敷金」の定義が明確化されました。
「敷金」はいままで法律に明記されているものではなかったため,地域や不動産屋,大家によって名称が違う場合も多かったんですよね。
いわゆる「礼金」,「権利金」,「保証金」などですね。
2020年4月1日以降は,名称は関係なく賃料の担保目的ならば敷金として定義されることになります。
敷金の返還時期
また,「敷金」の返還時期についても明確化されました。
「賃貸借が終了して賃貸物の返還を受けたとき」です。
敷金の返還範囲
敷金の返還の範囲も明確化されました。
払った敷金から未払い債務額を引いたものが返還されると明記されました。
「未払い債務額」とは損害賠償,未払いの賃料,原状回復費用などがそれにあたります。
ちゃんと賃料を払っていて原状回復負担分がないならば「全額」返ってくるってことですね。
原状回復ルールの明確化
一番トラブルが多い「原状回復」についての考え方についても明確化されました。
賃借物に損傷が生じた場合には,原則として賃借人は原状回復の義務を負うが,通常損耗(賃借物 の通常の使用収益によって生じた損耗)や経年変化についてはその義務を負わない。
つまり,普通に使っている分については,借り主は原状回復分は負担しなくてよいということです。
保証人についての改正
次は,「保証人」についての改正です。
「保証人」とは借金などをするときに返せない場合の代わりに返済をする立場の人のことです。
いろいろな問題が有る仕組みでしたよね。
頼まれて深く考えずにはんこ(印鑑)を押してしまったら,借金をした本人が返済せず,借金を背負わされて大変なことになってしまったという話はよく聞く話ですよね。
今回そのような問題が多い「保証人制度」について改正が加えられました。
極度額の定めのない個人の根保証契約は無効に
個人が根保証契約を締結する場合には, 保証人が支払の責任を負う金額の上限となる「極度額」を定めなければ,保証契約は無効となるようになります。(貸金等はすでに平成16年に改正され,その定めがあります)
つまり,いくらまでは保証するという上限を定める必要があるってことでね。
法定利率についての改正
次は,法定利率についてです。
「法定利率」とは名前の通り,法律上で定められている利率のことです。
契約の当事者間に貸金等の利率や遅延損害金(金銭債務の支払が遅れた場合の損害賠償)に関する合意がない場合に適用されます。
具体的には交通事故の損害賠償などの遅延損害金の算定などに使われます。
今までは商事年利率6%,民事年利5%とされていました。
それが以下のように変更になります。
■施行時3%
■緩やかな変動制の導入
3年ごとに法定利率を見直し。貸出約定平均金利の過去5年間の平均値を指標とし,この数値に前回の変動時と比較して1%以上の変動があった場合にのみ,1%刻みで法定利率が変動
要約すると,まずは3%でスタートしてあとは今までのように固定でなく金利の変動に応じて変動するようにするよってことですね。
特に大きいのが交通事故の際の損害額の算定ですね。
消滅時効の見直し
次は,消滅時効です。
「消滅時効」とは,債権者が一定期間権利を行使しないことによって債権が消滅するという制度のことです。
今までの時効は職業別などになっていてかなりややこしかったのですが,今回はシンプルに統一化されることになります。
つまり,基本的に5年が消滅時効となります。なお,5年というのはを権利が行使できるのを知った時からです。
民事執行法
次は,民事執行法です。
「民事執行法」とは名前のとおり,裁判(民事)などで勝訴して,損害賠償などをもらえるはずが払ってくれないときに強制執行するための法律のことです。
しかし,この法律利用するにはちょっとハードルが高かったのです。
民事執行法を利用して強制執行の申立をするには相手先の差し押さえる財産がどこにあるのかを知っておく必要があったのです。
それではなかなか利用できませんよね。
よくあるのが離婚が裁判でまとまり,養育費を月○万円払うと約束したのに払ってもらえない。当時勤めていた会社もやめていて連絡がつかなくなって泣き寝入りなんて話ですよね。
そのようなことができにくいように今回改正がされたのです。
債務者の財産開示手続の見直し
「民事執行法」を利用するのに必要な情報(預貯金からの差し押さえなら金融機関名,支店名,給料からの差し押さえなら勤務先の名称,所在地など)を開示させる手続き(財産開示手続)がより使いやすく,強力になりました。
第三者からの情報取得手続き
前述の財産開示手続は本人に開示をさせる方法でした。今回もう一つ手段が設けられたのです。
第三者からも,債務者の財産に関する情報を得られるようになったのです。
債務名義を有する方であれば,裁判所に申立てをすることで財産に関する情報を第三者から提供を命じてもらうことができるようになります。
具体的には預貯金であれば銀行,勤務先であれば市町村や日本年金機構等,不動産については登記所ですね。また,株や債券などの財産情報も証券会社から入手が可能になります。
つまり,民事執行法が利用しやすくなったのです。
働き方改革関連法
次は,働き方改革関連法です。
すでに2019年(平成31年)4月から導入されている働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)ですが,2020年4月からまた変わります。
中小企業も時間外労働の上限規制の適用に
まず大きいのが今まで大企業等だけが対象となっていた残業規制が中小企業にも適用になります。
具体的には2019年(平成31年)4月から大企業は以下のような規制となっていました。
具体的には「時間外労働(休日労働は含まず)」の上限は,原則として,月45時間・年360時間となり,臨時的な特別の事情がなければ,これを超えることはできなくなります。
このルールが2020年4月から中小企業にも適用となります。
なお,例外として令和6年3月まで建設業,自動車運転業務,医師には上記ルールは適用しないとされています。
同一労働同一賃金
また,大企業においてパート・有期雇用・派遣社員と正社員の同一労働同一賃金が求められるようになります。(中小企業は2021年4月1日から)
具体的には同じ企業で働く正社員と短期間労働者・有期雇用労働者との間で,基本給や賞与,手当などあらゆる待遇について,不合理な差を設けることが禁止されます。
ポイントは非正規雇用労働者について以下を統一的に整備されることでしょう。
- 不合理な待遇差の禁止
- 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
- 行政による事業者への助言・指導等や裁判外紛争解決手続の規定の整備
中小企業の要件
ちなみに中小企業の要件は以下の通りです。
(補足)法律によって中小企業の定義は多少違うケースがあるのでご注意ください。同一労働同一賃金は以下の条件を満たした企業が中小企業と定義され2021年3月31日までは適用されません。
小売業 | 資本金5,000万円以下または従業員50人以下の企業 |
サービス業 | 資本金5,000万円以下または従業員100人以下の企業 |
卸売業 | 資本金1億円以下または従業員100人以下の企業 |
その他 | 資本金3億円以下または従業員300人以下の企業 |
まとめ
駆け足で,要点のみ簡潔に説明しましたが,いかがでしょうか。
これは,ほんの一部にすぎません。
最後になりますが,記事の投稿にあたり以下の資料を参考させていただきました。
もっと詳しく知りたい方は,ご覧ください。
■ 法務省「2020年4月1日から保証に関する民法のルールが大きく変わります」
■ 法務省「民法(債権法)改正 2020年4月1日から債権法(民法の契約等に関する部分)が変わります」
■ 法務省「民事執行法とハーグ条約実施法が改正されました。令和2年4月1日から施行されます」
■ 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「時間外労働の上限規制わかりやすい解説 2019年4月施行」
最後までお読みいただきありがとうございました。
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