概要
「構造設計一級建築士」の「定期講習」は,設計事務所に所属してるか関係なく,必ず3年ごとに,「定期講習」を受けて,修了考査に合格しなければなりません。
私は,資格設立初年度の平成20年度に取得しましたので,いままで,3年ごとの全ての「定期講習」を受けました。
その「定期講習」の重要項目(講習テキストのアンダーライン部分を中心)をまとめてみます。
実際の「定期講習」の終了考査は,上記の部分からの出題が大半です。
かなりの長文になるかと思いますが,これから,「構造設計一級建築士」を目指す受験生の参考にしてください。
平成23年度 構造設計一級建築士 定期講習の要点
信頼される構造設計者を目指して
構造設計とは
性能規範は,材料や部材の応力,部材のたわみ,部材の終局強度,架構の崩壊形式等に関わるもので,それらの多くは建築基準法によって最低要求(Minimum Requirements)が定められている。
構造設計者は,この法に示されている最低要求を満たすことは当然ながら,場合によっては,法に示されていない性能の追加や,法に示されている要求レベルよりも高いレベルの性能を付与することが必要となる。
構造設計を,意匠設計者の言うなりに仕事をこなす,没個性的な仕事と理解している人がいるかもしれないが,それは大きな誤りである。創造力なくしては,構造設計は行えない。また,建築基準法を守ればよいというものでもない。
構造設計という業務は本来創造的なもので,基準などで規制される性格のものではなく,どれだけ創造的な考えを投入できるかが勝負である。その創造性は,構造設計者がもともと持っているものではなく,学問と経験によって培われたものであって,ー朝ータに身に付くものではないことを理解すべきである。
コンピューター依存社会の構造設計
現在の構造設計が,コンピューターとソフトウェア無しには語れない状況にあることは言うまでもない。
しかし,そこにはソフトウェアを正しく用いるという条件があり,利用者には構造工学の知識取得と構造的センスの醸成が欠かせない。
これを怠ると,得られた結果が妥当なものかどうかの判断が出来ず,誤った結果をそのまま構造設計に反映させてしまいかねない。
構造設計と社会
われわれの住まう生活環境に,安全と安心を与えるために,構造設計は,自然科学の範疇を超えて,人間科学や社会科学との連携を高めなければいけない。現在の社会は,産業界まで含めて,高度にネットワーク化された社会構造となっており,どこかに綻びが発生すれば全体として大きな社会損失に繋がり,我が国を支える産業構造自体も機能しなくなる危惧がある。これを避けるためには,個々の建築物の機能維持能力を極力高くし,ネットワークを強固にしなければいけない。
構造設計者の技術者論理
建築構造設計に関わる技術者が持つべき技術者倫理を述べるのは容易でないが,いくつかごく常識的なものをあげると,〔順法性〕,〔説明責任〕,〔真実の記述〕の三つになろう。自己研鑽の不足による知識の欠如により,故意ではなく,これらに反する行動をとることがある点に注意しなければいけない。すなわち,技術者倫理を守るためには,一般の人々に比べ格段に高い専門知識と経験を有していなければいけないし,そのための継続的職能開発(CPD) を継続することが肝要である。
構造設計に関する重要事項
構造力学・構造解析
ラーメンの保有水平耐力
保有水平耐力の算定法には種々のものがある。現在用いられている代表的なものとしては,プッシュオーバー解析(漸増載荷解析),メカニズム法(機構法),節点モーメント分割法(節点モーメント振り分け法),層モーメント分割法などがある。
メカニズム法,節点モーメント分割法,層モーメント分割法は,20 世紀半ば以降に発展した塑性極限解析(構造設計ー級建築士講習テキスト(以下,資格取得テキスト)第2章第1節構造力学・構造解析1-4(2) 参照)の基本定理に基づき提案された方法であり,メカニズム法は上界定理に基づき,節点モーメント分割法,層モーメント分割法は下界定理に基づいている。
プッシュオーバー解析 による保有水平耐力の算定
プッシュオーバー解析では,図1-1 に示すように,与えられた外力分布形のもとで漸増載荷を行い,崩壊機構に達した時を基本とするが,崩壊機構に達するまでに極めて大きな層間変形角に到達する場合,崩壊機構に達するまで漸増載荷できない場合がある。そのような場合には,ある層の層間変形角が想定した値(たとえば1%~2%の範囲)に到達した時点とする。
劣化型の部材や構造要素を含む場合の保有水平耐力の算定
耐力劣化型の部材や構造要素を含む場合の取り扱いとしては,(1) 脆性破壊が発生する前の耐力を用いて保有水平耐力を算出し,同時に周辺部材のDs 値を割り増す,(2) 安全側の取り扱いを行い,同時にモデル2を採用した場合に塑性ヒンジが発生することになった部材についてはその塑性変形能力について検討を行うことなどが考えられる。可能であれば,想定される種々の荷重分布に対して,耐力劣化型の部材や構造要素には脆性破壊が生じない(耐力に達しない)構造計画を行うことが望ましい。
構造計画
性能設計の考え方
性能設計とは,一般的には以下の概念によって建築物をつくりあげることを指している。
- 専門家が建築主の要求性能や与条件を把握し,助言を行い建築主との協議に基づき目標性能を設定する。
- 適切な性能評価手法により目標性能を満足するように設計を行い,設計図書により設計性能を表示する。
- 設計の意図通りの性能が実現するような施工が行われていることを確認する。
- 完成した建築物について「目標性能」が達成されることを確認する。
併用構造の計画
建築の構造は単純で明快なものがよいとされているが,複雑で多機能が求められる現代建築に対しては,単純な構造を用いることよりも適材適所の発想に基づく併用構造を用いるほうが合理的な場合もある。
併用構造を用いる目的は,材料や架構を組み合わせることによりそれぞれの長所を生かし,全体として性能の優れたシステムを構成することであり,力学的な特性,デイテール,施工などに対する配慮が必要となる。
耐震設計
はじめに
構造的な最低基準を定める構造規定あるいは,建築基準(Building Code)も,最先端の工学的な知見に基づいて規定される筈であるが、現実には国によって大きく異なる。これは、それぞれの国の建設の方法がそれぞれの国に特有な文化や伝統に影響されること,経済的・技術的なレベルが異なること,安全性に対する社会の期待あるいは許容できるリスクが異なること,などに起因している。耐擬設計では,極めて稀に発生する大地震に対しても人命の安全を確保するという,地震危険度に対する建築物の基本的な且標性能は共通であっても,建築物に対して社会が要求する構造性能が異なってくる。
まとめ
世界の主な国の耐震規定の動向を見ると,建築物の耐用年限における地震発生の超過確率を考慮して設計用地震動の強さを決めるとともに,建築物の重要度を考慮して建築物の性能目標を定めている。しかし,弾性加速度応答スペクトルを構造物全体としての変形能よって低減したのち,線形弾性解析により部材応力を定め,部材の終局強度によって断面算定をしている。設計で想定する建築物全体としての変形性能を保証するために,構造詳細について厳しく規定している。
その反面,日本では,稀に発生する地震に対して許容応力度設計を行い,非構造部材の損傷を抑制するために層間変形角を制限し,極めて稀に発生する地震に対しては,部材の弾塑性挙動を考慮した水平力漸増載荷解析により層の保有水平耐力を確認する方法の他に,時刻歴応答解析による方法,限界耐力計算,エネルギーの釣合に基づく耐震設計法など,解析方法が多様である点でも,世界でも独特である。
鋼構造
座屈拘束ブレースの設計
座屈拘束ブレース(以下BRB)は,図4-2 のように,座屈拘束材が長さ(材軸)方向に連続的に鉄骨ブレース芯材の横移動を拘束してその曲げ座屈を防止し,圧縮力に対しても芯材の軸方向塑性変形を可能としたものである。
角形鋼管柱・H形断面梁接合部の曲げ耐力
図4-8 に示す角形鋼管柱・H形断面梁溶接接合部は工場溶接タイプと現場溶接タイプに大別される。工場溶接タイプではノンスカラップエ法が可能であるが,現場溶接タイプは下フランジの溶接をスカラップ形式にせざるを得ないこと,内開先となることなども理由で変形性能が低くなり,梁端拡幅工法あるいはRBS工法の採用が望ましい。
PΔ効果を考慮した柱の設計
大地震時の建築物の安全性を確保し,さらに地震後の継続使用を可能とするためには,少なくとも柱を弾性域あるいは微小塑性域に留めておくことが望ましい。そのためにはPΔ効果による付加曲げモーメントの影響を考慮して柱を設計しておく必要がある。
鉄筋コンクリート造
地震被害とその教訓
十勝沖地震における鉄筋コンクリート造柱のせん断破壊は,設計規準である「日本建築学会:鉄筋コンクリート構造計算規準」の改訂を促し,昭和46(1971)年の建築基準法施行令改正につながることになった。すなわち,構造方法規定として定められているせん断補強設計に関する規定が大幅に改正され,柱の帯筋間隔として端部100mm,その他150mmを基本とすることなどが定められた。
平成7(1995) 年の阪神・淡路大震災は,近代都市を未曾有の直下型地震が襲ったことによる大災害であった。残念ながら多数の建築物が被害を被ったが,鉄筋コンクリート造建築物の被害には,柱のせん断破壊に代表される従来型の脆性的な破壊が多発したことに加え,以下のような被害が目立った。
- ピロティ建築物の1層崩壊(写真5-10) や中間層の層崩壊(写真5-11 )。
- 柱梁接合部のせん断破壊(写真5-12)。
- 鉄筋継手や端部定着詳細に起因する被害(写真5-13)。
- 二次壁等の非構造部材の被害。
壁量と地震被害
柱と梁のみからなる純ラーメン架構(図5-2(a))に比べて,ラーメン架構に壁を入れると(図5-2(b)),地震力などの水平力に対して,高い強度と剛性を確保することができ,建物の耐震性も高くなる。このような目的で配置する壁を耐震壁という。
寄せ筋の地震被害
柱の曲げ性能を効率的に高めるため,柱主筋をコーナーに集中する配筋法がある。日本でも寄せ筋と称して施工されている。この配筋方法は,モーメント抵抗を高めるためには有効であるが,コーナーの主筋(これは通常束ね鉄筋となる)の周長が断面積に比べて著しく小さくなり付着割裂破壊に結びつく。
地盤・基礎
調査結果の十分な理解の必要性
地盤は原則として水平なものは少ないという観点で地盤調査結果を見ることが必要である。特に杭の支持層を決める場合には地盤の連続性だけではなく層厚,傾斜等を調査結果と過去のデータ等から注意深く判断することが求められる。支持層が傾斜した地盤に遭遇することも多いが,このような地盤の注意点としては決して平均的に傾斜している場合ばかりではないということである。多くの場合に支持層は急激にその深さを変化させる。なぜかと言えば,平野部の多くの地盤は過去において堆積と浸食を繰り返しているからである。
地盤をどのようにモデル化するか
地盤は周到な準備で地盤調査を行ったとしても,それは地盤という3次元の領域の一部を調べているにすぎない。そのために過去のデータ(付近の既往データ,地質的所見等)を含めて敷地及びその周辺の地盤情報をできる限り集めることが必要である。そのうえで想定している基礎形式を考慮した地盤のモデル化を行う。具体的には敷地地盤の層構成,各土層の連続性,厚さ(変化を含む),及び各層の強度,剛性などの設計に必要な地盤定数である。
地盤の代表的な課題への対応
地震時の液状化の被害は建築物だけでなくインフラにも及ぶことを十分に認識することが重要である(写真6-1)。液状化の可能性はN値とその深さ及びその試料の粒度分析結果から簡便に判断できるので,沖積層の砂質土地盤では必ず確認することが必要である。
杭の性能向上,設計での配慮そして施工管理の重要性
杭で第一に注意すべきは鉛直支持性能であることは論をまたず,どのような場合でも,設計者は自分が考えている性能が実際の施工終了時に保証されているという感覚であろう。勿論そうあって欲しいが,そのためには設計時に敷地地盤の特性を十分に把握したうえで,採用を想定する施工法の特徴を認識して,施工に無理な条件はないか,施工経験はどうか,施工管理体制はどうか等に注意を払っておくことが必要である。
建築構造に係る近年の災害・事故事例
近年の災害事例(平成16年新潟県中越地震(2004年10月))
木造の被害状況及びその特徴
被害の一つの特徴として,地盤の変状による被害(写真1-2) が多く見られた。液状化や宅地の崩壊が起こり,基礎が無筋コンクリート造やプロック造の場合に,基礎の割れや転倒が生じ,それに伴って,床組や壁組に被害を生じた例が多数見られた。外観上の被害が軽微とみなされるものであっても,床束が倒れたことによって,床の傾斜やたわみの増大などの被害が数多く生じている。このような地盤変状に対して,雪国仕様のRC造の高い基礎(高基礎)は有効であり,これが被害を小さくしたと考えられる(写真1-3) 。
鉄筋コンクリート造の被害状況及びその特徴
震度7地域においてはRC造の上部構造の被害は1995年兵庫県南部地震と比べて少なかった。この理由として,RC造は比較的新しいものが多かったこと,基礎構造が崩壊したことにより上部構造に損傷が及ばなかったことなどが考えられる。
震度6強地域においても兵庫県南部地震と比べて被害は少なかった。この理由は,地震動の卓越周期が短周期側であったこと,建築物と地盤の相互作用や地盤の塑性応答などにより建築物基礎には観瀾記録ほどの大きさの入力が無かったこと,積雪量の関係などが推測されるが,さらなる検討が必要である。しかし,震度6強地域においても,RC造の被害は既往の地震被害と同様に,ピロティ建築物や長柱で構成される渡り廊下棟の損傷が大きく,一部の古いRC造は大破の被害が見られた。
震度6弱地域でも,建築物の竣工年や補強の有無に関係なく地盤変状による被害が多く,震度6弱や5強地域でも,構造計直や施工の不良が原因と考えられる被害が見られた。
鉄骨造の被害状況及びその特徴
鉄骨造の学校体育館を中心とした調査では,柱,梁,柱梁接合部などの構造躯体に大きな損傷を受け,長期間使用不能となるような鉄骨造は殆どなかったが,ALC版などの内外装材の落下,窓サッシやガラスの破損など非構造材の被害が多数見受けられた。
構造被害(写真1-5) では,引張プレースとして設計された軸組プレースの座屈・破断,プレース接合部の破断,ブレース接合部高カポルトのすべり,柱脚部アンカーボルトの伸び・破断などのほか,屋根面水平ブレースの損傷・破断,柱脚部立上りコンクリートの損傷などがあげられる。また,地盤変状に起困する基礎構造の損傷や床の沈下も見受けられた。
近年の事故事例(火災事故)
火災事故事例
■ニューヨーク・ワールドトレードセンター7,WTC7
崩壊の引き金となったのは,火災時の小梁の伸び出しであった。大梁の側面に接合された耐火被覆小梁が火災の加熱によって熱膨張することによって,大梁に側面からの押し出しカが働き,結果として大梁は柱との接合部から外れて脱落・落下した。このような構造は,最近,わが国の設計環境においても特別なものではなくなってきている。日本の建築物は耐震設計がなされており接合部はより堅固なものとなっているが,小梁と大梁の断面や接合部の接合方式によっては検討が必要となる。
火災事故の原因と対策
WTC7 のように鉄骨部材に耐火被覆を施していたとしてもその架構形式によっては,火災時の部材の熱膨張こよる架構の変形によって建築物が崩壊することもある。構造設計者は地震や風などだけでなく建築物の構造安定性に関わる全ての外力に対して建築物の安全性を担保する義務がある。特に新しい部材や架構形式などを設計する場合は,その耐火性能や火災時の建築物の応力変形状態も検討しなければならない。
近年の構造設計法「超高層建築物の構造設計」
耐風設計
設計用風荷重
風圧力に対しては,2つのレベル(稀に発生する荷重・極めて稀に発生する荷重)で安全性を確認することとなっている。この確認は,風方向のみならず,風直交方向,ねじれ,および屋根面の鉛直方向の振動を適切に考慮して算定することを要求されている。具体的には,高さが 100m以上かつ高層部のアスペクト比(高さ/短辺見付け幅)が3以上の建築物は,直交方向の振動およびねじれ振動を適切に考慮する必要があるとされている。
耐風設計と安全性
建築物が塑性化すると周期が長くなり,元の周期で評価した風荷重より大きな値となってさらに塑性化が進む可能性がある。また,作用が長時間にわたるため疲労損傷を考慮しなければならない場合がある。このように,耐風設計では,塑性化後の建築物の挙動が重要になるが,この挙動が現状では不明な点が多いため,レベル2の風荷重において継続時間内に進行性の変形を生じないような概ね弾性的挙動範囲の設計をするように心がけることが必要になる。
耐震設計
振動系モデルの設定
地震応答解析に用いる振動系モデルは,構造方法及び振動特性によって建築物の各部分に生じる力及び変形を適切に把握できるように設定されていることが必要である。復元力特性及び減衰特性は,建築物の構造方法及び振動性状を適切に反映したものとする。また,解析モデルも等価せん断型,等価曲げせん断型,等価フレーム型,部材モデル型等の中から選択することになるが,解析モデルが複雑になるほど解析時間が増加し誤差も問題になるので,目的にあった解析モデルを選択することが重要となる。
最近では,超高層建築物の設計に費やす時間が大幅に短縮され,解析結果も短時間で求められるようになってきた。このため,略算解析によって建築物全体の挙動を把握し,最終段階で詳細な解析を行って細部を確認するような手法を取らないで,最初から立体部材精算弾塑性解析モデルのような精算解析を採用するケースが増えている。それは,略算解析のモデル化や解析結果の部材レベルでの評価等に要する時間を嫌い,解析データの作成に時間を要しても高次の影響が取り込めることや,制振装置を取り込んだ架構近傍の部材応力や変形を直接把握することができることから精算解析を採用している。しかし,解析モデルが複雑になればなるほど膨大な出力が得られ,この出力が解析結果の評価を難しくしている。精算解析を採用した場合は、出力された部材応力や変形の最大値がクライテリアを満足しているかどうかだけに注目するのではなく,フレームごとの分担や安全率さらには直交フレームの影響等を幅広く検討し,応力や変形のそれぞれの値が持つ意味を正しく理解する必要がある。
設計の留意点
構造計画は,振動特性上のねじれ板動やむちふり現象を生じさせないような平面計画や上下方向の質量,剛性や耐力が均ーな立面計画等が重要になるので,計画の初期段階から建築計画と一体になってまとめていく必要がある。しかし、建築計画の要求によって,やむを得ず整形な平面ではなく偏心の生じるような場合や吹き抜け等が計画されて剛床仮定が成立しないような場合は,耐震設計上の特別な配慇が必要になる。例えば,ロングスパンを有する架構の上下振動の検討,主軸が傾いた建築物や隅柱の二方向同時入力による検討,平面的に長大な建築物の位相差の影響,層間変形角が大きい場合のPΔ効果の検討等があり,日本建築センター「評定評価を踏まえた高層建築物の構造設計実務」が参考になる。
構造設計者は解析技術に頼るのではなく,解析が設計を確認するツールの一つであることを認識して,設計する超高層建築物の最適な安全余裕度をどのように確保するかが問われている。
近年の構造設計に関する重要技術
地震と地震動
地震の発生
海溝地震と内陸地殻内地震
海溝地震は,内陸地殻内地震に比べて一般にその再現期間が短かく,さらに地震規模が大きいものが多い。しかし内陸地殻内地震でも1891年濃尾地震のようにマグニチュードが8クラスの大地震が発生することがあり,震源至近距離の大都市などでは,1995年兵庫県南部地震のように,マグニチュードが7クラスの地震であってもきわめて甚大な災害を生ずることがある。
地震予測に関係する要因
震源での地震発生後,地震動が建築物へ作用(入力)するまで,地震動は基本的には,3つの要素すなわち震源特性,伝播特性,地盤増幅特性により影響を受ける。
地震基盤と工学的基盤
近年,超高層建築物やロングスパン構造などの増加で建築物の固有周期の範囲も広くなっているが,一般中低層建築物の固有周期は2秒程度以下である。このクラスの建築物を対象とする場合には,地盤増幅については,いわゆる工学的基盤と呼ばれる地層より浅い部分の性質を考えればよい。逆に超高層ビルなど固有周期が非常に長い建築物に作用する地震動についてはもっと深い地下の地盤面からの地震動の増幅特性を考える必要がある。この場合に設定する基盤を地震基盤と呼び,工学的基盤と区別している。
継続時間と共振現象
近年建築分野では,0.1~0.2秒の短周期成分から6~10秒の長周期成分までのきわめて広帯域の振動を扱う必要が出てきたことから,それぞれの周期帯域での変位,速度,加速度の各振幅がどのような関係にあるかを理解しておく必要がある。
図1-7b) に変位振幅を1cmとした場合の固有周期 0.1 ,1,10秒の3ケースにおける加速度,速度,変位振幅を求めてみると,周期10秒の加速度波形は0.1秒の加速度波形の1/10,000 の振幅になり,目視ではほとんど認識できない程度に小さくなることがわかる。
耐震構造建築物等の地震時挙動
耐震改修された建築物
近年における公立学校施設の耐震改修の状況は,幼稚園は約66%,小中学校および高等学校は約73%である(図2-1)。病院については,約56%がすべての建築物で建築基準法の基準を満足している(図2-2)が,公立学校よりは低い耐震化率である。これに対して,民間建築物の耐震化は経済的な理由からなかなか進んでいないのが実情である。
免震建築物
免震建築物,免震集合住宅,免震戸建て住宅の計画は平成7(1995)年の阪神・淡路大震災以降急激に増加している。
鉄筋コンクリート部材のひび割れ制御
はじめに
一般に用いられているコンクリートの乾燥収縮率は 4×10^4 ~ 10ⅹ10^-4 でかなりの幅がある。このような収縮量の違いにはコンクリートの材料や調合が影響しているが,特に骨材の岩種による影響が大きい。また,高強度コンクリートにおいては,セメントの水和反応によりコンクリート中の水分が消費されることによって収縮する,自己収縮と呼ばれる現象が生じ,硬化初期における収縮が顕著である。
クリープヘのセメントの種類,品質,調合の影響は,荷重の作用時のコンクリート強度が大きいほどクリープは小さいことから,強度発現が早いセメントほど,水セメント比が小さいほどクリープは小さくなる。骨材はセメントペーストのクリープを妨げる効果があるので弾性係数が大きい骨材ほどクリープは小さくなる。コンクリートの打ち込み後の養生方法と期間は強度発現に大きな影響を与える。したがって,クリープを少なくするためにも硬化初期における適切な養生が重要である。
ひび割れ幅算定式
ひび割れ幅はひび割れ間の鉄筋の伸びとコンクリートの伸びの差として現れる。ひび割れ発生時におけるコンクリートの伸びは鉄筋の伸びに比較して無視することができるほど小さいので,ひび割れ発生時のひぴ割れ幅はひび割れ間の鉄筋の伸び,すなわち鉄筋の平均ひずみとひび割れ間隔の積で計算される。持続荷重下ではこのひび割れ幅にコンクリートの乾燥収縮によるひび割れ幅が加算される。乾燥収縮によるひび割れ幅は,ひび割れ間コンクリートの収縮ひずみとひび割れ間隔の積で計算される。また,ひび割れ幅はばらつくが,制御目標とする最大ひび割れ幅は平均ひび割れ幅のほぼ1.5倍である。
プレストレスト鉄筋コンクリート(PRC)部材のひび割れ制御
たわみに関しては,ひび割れが生じると部材断面の引張領域の曲げ剛性への寄与が小さくなり変形が増大する。したがってRC部材ではスパンLと部材せいDの比は1/10程度に制限される。PRC部材ではプレストレスにより中立軸位置を下げ,部材剛性を高めることによって,たわみを制御することができるので,PRC梁部材の適用スパンLは10D~20Dである。
東京駅丸の内駅舎保存・復原
構造計画
本建築物の復原計画に当たっては,目標耐震性能を下記の通り設定した。
- 稀に発生する地霙時:レンガ壁にひび割れが発生しない
- 極めて稀に発生する地霙時:レンガ壁にひび割れが発生するが,大きな補修をすることなく,建築物を使用できる
上記耐震性能を確保するために必要な耐震補強量を算出した。非免震工法の場合には内壁の概ね5割を耐震補強が必要であるのに対して,免震工法を採用した場合には耐震補強がほとんど不要である。
引用文献:構造設計一級建築士定期講習テキスト平成23年度(財団法人建築技術教育普及センター)
総括
現在,受験資格がなくても事前に「構造設計一級建築士」の試験対策をしたい方は,一読することをお勧めします。
参考リンク集
【構造設計一級建築士試験対策】法改正施行後 第2回目の「平成26年度定期講習」の概要集
令和2年 合格者発表!「構造設計一級建築士」になるためには?は,こちらです。
令和元年 合格者発表!「構造設計一級建築士」になるためには?は,こちらです。
「令和元年度構造設計一級建築士講習」考査問題及び修了判定の概要は,こちらです。
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